贈り物

なんとなく、この人はきっとお金持ちのお嬢様なんだろうな、と思っていた女性がいた。どこか控えめで、奥ゆかしい、私より何歳か年上の人。その人は先月末で任期満了で退職した。

 

いつから始まった風習なのかわからないが、退職する女性は、お世話になった人へお礼を伝えに行く際、個包装のお菓子がいくつか入った包みやおかきなど、贈り物を携えている事が多い。先月末、ありがたい事に数人から頂いた。これから環境が変わって何かとお金がかかるだろうから、なんも出費しなくていいのに、と思うが、自分も同じ立場なら同じことをするだろうし、お菓子はいつだって嬉しいものだ。

 

そんな中、前述した女性は、私から何度か手作りお菓子をもらったからと、手のひらサイズのブラシと石鹸をくれた。なんてオシャレな贈り物!と思った。髪が伸びてきたから、持ち歩く用にとかすものが欲しいって思ってたの、なんでわかった?!と驚いた。そのブラシは、軽くて、持ち手が木製で、丸みがあってスベスベしている。髪をとかし終わった後、そのスベスベ具合を手のひらや手の甲で味わったりしている。クンクン匂いを嗅いだりもした。完全なる無臭だった。

 

お昼ご飯を食べ終わって、歯を磨き、眼鏡を拭き、そのブラシで髪をとかす。本を読む。本を鞄にしまって、また髪をとかし、午後の仕事へ。そのブラシを手にする時、なんだか少しだけ綺麗になれるような、そんな期待を抱かせてもらえる。それをくれた女性の髪を綺麗と本人に言った事があったし、私が髪を伸ばしている事も気付いてくれていたんだと思う。もしかしたらもう会えないかもしれないが、それがまた特別な感じがしてる。その人の笑顔をこれからも覚えているだろうし、しっかりとぬくもりが残っている。