金曜の夜

無料送迎バスに乗ったのは私1人だった。

運ぶ人数と経費とを天秤にかけて、この送迎サービスを辞めようって話題出てたらやだな、とても助かってるから続けておくれ。そんな事を考えながら流れる景色を見ていたが、そもそも数年ぶりに行くくせに、そんな風に願うのはおこがましいよな、とも思った。外はまだ少し陽が残っていた。雪道でガタガタと揺れる。ちょうどタイヤがボコっとしてるとこに座っちゃった。

 

パートナーが不在の今夜、スーパー銭湯を満喫しようと思い立ったのは在宅での仕事中。17時きっかりに仕事を終え、母と短い時間電話で話し、無料送迎バスに揺られて到着した。

 

身体を流して軽くお湯に浸かり、湯着を着て岩盤浴でじっとりとした汗をかき、漫画がある休憩所で1冊読み、岩盤浴に入り、漫画を1冊読み、お風呂で温まった。

 

お食事処でとんかつ定食を頼んだ。メニューにオロポがあって、あぁ話題になった時に飲んでみたいと思ったんだよな、と思ったが頼まなかった。ご飯前に炭酸飲んでお腹膨らますのもな、まぁオロCとポカリ買って家でも出来るか、でもここ特有の配合はここでしか味わないよな、いいの?頼まなくて。そんな脳内会議を終わらせるべく、吉本ばななさんの短編集『ミトンとふびん』の『カロンテ』を読み始めた。

 

その一つ前の表題作『ミトンとふびん』は昨夜眠りにつく前に布団の中で読んだ。少し涙が出て、目の周りの保湿ケアが消え失せたので、クリームを塗り直して寝た。

 

この人の小説はこの人の小説を読んだ時にしかならない感情を産む人だから、いつかノーベル文学賞を取るのかななんて考えてる。どんな人が歴代ノーベル文学賞を取ってるのか全く知らないんだけど、いわゆる文学の最高峰ならきっと。

 

カロンテ』を半分読み、とんかつ定食が到着。お味噌汁の蓋が取れやすいようにほんの少しだけ傾けられていた。全てを美味しくいただいた。続きを読み終え、バスの出発までに次のお話も読み終えられそうだったけど、読み進めずに、この文章を書き始めた。

 

帰りのバスには私の他に3人乗っていた。みんなお風呂上がりなんだね。志村けんが食べてたようなスイカの形をした月を、少しも寒くない私が見ている。