早上がりのひととき

とにかく体が丈夫な私は、滅多に仕事を休まない。あまりにもいつも同じ調子なので、上司に「〇〇さんはほんと風邪ひかないよね」と言われた事もある。いつもそこにいる人、いつ掛けても電話に出る人、それだけで得られる信頼感もあるだろうと思っている。むしろ、それくらいしか自分には出来ないという考えでもある。終日休む事はほぼ無いが、年に数回、上の人の予定に合わせて数時間早く帰る日がある。たとえ予定が無くとも。そして、それが今日だった。

 

夜は試写会がある。1度家に帰ってDVDを観ようかとも考えたが、昼下がり特有のジリっとくる日差しを浴びると、どこか涼しいお店で読書をしようという考えに変わった。集中出来れば1冊読み終わるくらいの時間はあった。大通駅近くの石屋製菓のカフェでアイスティーを頼み、西川美和さんのエッセイ「映画にまつわるxについて2」を読み始めた。店内は年配の女性が多く、みな熱心におしゃべりをしていた。果たして、おじいさん同士ってどこに行って何をするんだろうと思いながら、本に目を走らせた。30ページまで進んだ所で、「犬は死期が近づくと、とにかく人の近くに居たがるものだとも聞く」という一文を読んだ瞬間、本を閉じ、まだ半分残っていたアイスティーのカップを手に取り、店を出た。猛烈に愛犬に会いたくなった。顔を見たくなった。撫でたくなった。匂いをかぎたくなった。

 

愛犬は現在14歳。ずっとずっと、いつかはいなくなってしまうんだと自分に言い聞かせている。最近は、私が帰宅しても、気付かずに寝入っていることが増え、もしかして・・・と思いながら触れて温かさを確かめている。私がソファーに寝っ転がって映画を観ている時、愛犬はたいていソファーのふもとで眠っている。愛犬を起こさないようにそっとトイレに行く。終えると、ドアの前で私が出るのを待っている。そんな事が増えた。ちゃんと戻るから慌てなさんな、とかなんとか言って顔を撫でて、指定席に一緒に戻る。

 

愛犬がどこかをぼっと眺めている時、今何考えてるんだろう、と考える。「一人で寝るのもいいけど、この人がいる時も同じくらいぐっすり寝れるな」って思ってくれたら私は最も救われる。仕事をしながら一人で犬を飼うという事は、「(犬は一人でいる時間が多くて)かわいそう」と周りから言われる事にも耐えなければいけない。後ろめたさを感じないわけはない。答えのでないことは、自分のいいように考えるか、考えないに越したことはない。

 

朝、私が身支度を整えていると、愛犬は自らゲージに入っていく。ゲージにはトイレシートとご飯とお水。自ら自分の部屋に戻り、静かに眠る。時間が経ち、私が帰ってくる。その繰り返し。大好きだよ、と何度も伝えている。なんでそんなに可愛いの?と聞いても、白くなってきた目で見つめ返してくるだけである。

 

一時帰宅し、愛犬を撫で、これを書いた。いざ試写会へ行ってきます。