「建築学概論」の感想

※がっつり内容に触れます。

 

イ・ヨンジュ監督作「建築学概論」、2回目を今観終えた。とってもいい作品で大好きだ。恋の楽しさや眩しさ、苦しさやどうしていいか分からない歯痒さがギュンギュンに詰まっている。また、あの頃にはわからなかった親のありがたみが、大人になってから沁みてくる、というシーンも胸を打つ。

 

沢山印象的なシーンがある。
片思いの女の子(ソヨン)の名前を夜の路上で叫ぶスンミン。髪のムース。イヤホンで曲を分け合う。線路の上を落ちないように歩くゲーム。罰ゲームのしっぺ。指切り。校内放送で彼女の声が聞こえてきて、嬉しそうにするスンミン。ソヨンを愛おしそうに見つめるスンミンの澄んだ表情。

 

中でもロングTシャツについての話がとても印象的だった。ソヨンと2人で出かける日、わざわざ母親に急いで洗わせたくらい気に入っていたシャツ。それを先輩がバッタものだとバカにするシーンはとても辛くなった。そのシャツを母親の前で投げ捨てるスンミン。数年後、母親がそのシャツを着ている事にスンミンが気付くシーンは涙無しには見れなかった。地道に働いて養ってくれた親。その親に買ってもらったものを何の経済力もないくせに粗末にした負い目を私も持っている。今更わざわざ口にしない「ごめんね」が、いくつも胸の奥に沈殿している。

 

私が小学生の頃、担任の若い男の先生が、「○○君の着てる服は(値段が)高い」というような発言をしたことを今でも忘れられないでいる。その頃は、自分の家が裕福か貧困か考えたことが無かったし、人と比べたことが無かった。必要なものは買ってもらえていたし、家族と休日にスーパーや動物園に行ったりするのが楽しかった。でも、先生は知っていたんだ。わかっていたんだ。着ているもの、親の職業、家。色んな情報で、だれがお金持ちか、だれがお金を持っていないかを。

 

私はバッタものだとスンミンをバカにした先輩がとても嫌だ。彼の「女は酒を飲ませて酔わす」手口も嫌だ。楽しく飲むのはいいけど、正常な判断が出来ない状態の女性に手を出して何が楽しいのか。彼女は酔いながらもキスされようとする事からちゃんと逃げていた。

 

あそこで「僕が介抱します」と言って欲しかった。でも、言えないよね。彼はソヨンが先輩を好きなんだと思っているし。無防備に酔った彼女の隙を目の当たりにしたショックもあるだろう。ソヨンにCDを返して、彼女を拒絶したスンミンの頬を張りたくなった。確かめる勇気を持たない弱さが悲しかった。きっと彼はそんな自分が大嫌いだっただろうと思う。私も彼の立場だったら、逃げる事が自分を守る術だと思ったかもしれない。

 

スンミンの友達は「始めてもいないのにやめるって?」と言った。でも、白黒つけることは、今までと同じような関係ではいられなくなるし、自分が生きていく支えがポキンと折れてしまう可能性もある。今となっては、1つの別れは1つのスタートでもあるとわかるけど、だからといって思い切りが良くなるかどうかはわからない。

 

「いつまで経っても変わらない そんなものあるだろうか」とブルーハーツはかつて歌っていた。この映画では時を経ても変わらないものがいくつか登場する。壁に書かれた身長の目盛り。花を植えるソヨン。洋服が汚れないようにお尻にノートを敷いてあげるスンミン。ごちゃごちゃの冷蔵庫。柵のへこみ。変わっていくものもあれば、変わらないものもある。

 

再会する前は、眉間に皺が寄るような思い出だったかもしれない。かき消そうとしたかもしれない。でも、これからの彼らは、少し微笑みを浮かべるかもしれない。どうしているかな、穏やかに過ごせていたらいいな、そんな風に静かに願えるかもしれない。そう思える事、そう願える事が、自分を支える柱になっていく。そして、「もしもあの時・・・」そういう想像は、日々の生活の憂き目から、少しだけ気持ちを浮かせてくれる。